2019 06.24
- #06
コンマティーの秘密
そのお店に一歩はいると、独特の香りに包まれる。これがタピオカミルクティーの匂い。コンマティー青山表参道店だ。
今や、タピオカミルティーブームは若い女性の間で不動の人気。最近では、男子が飲んでいる姿も珍しくなくなった。タピオカミルクティーは主に台湾や中国から来ているお店が多い。
その中で、『コンマティー』は日本で生まれた、日本独自のブランドだ。
2018年5月に1店舗目を恵比寿でオープン。10月、高田馬場店。KA&Aでは昨年の12月より池袋パルコ店 3月青山表参道路面店 5月吉祥寺マルイ、静岡パルコ店。とすでに4店舗、設計を担当している。
いつも驚かされるのは、初日、オープン立会いに行くとすでに「どこから現れたの??」というほどの長い行列ができていること。
日本全国、次々に店舗展開をする『コンマティー』。運営している、(株)ティーカンパニーの阿久津拓也さんにお話を伺った。
コンマティー お店ができるまで
元々は、ティーカンパニー社長の菊池さんと阿久津さんは、新卒で入社したIT系企業の同期だったという。同期は300人ほどいた中で阿久津さんはプログラマー、菊池さんは営業の仕事をしていた。
時期を同じくして二人は退職し、阿久津さんは株式会社スマイルズへ転職。スープストックトーキョーや、パスザバトン、100本のスプーンなど多様なコンセプトで店舗展開をしている会社にて、ネクタイブランドの「giraffe」(ジラフ)「刷毛じょうゆ海苔弁山登り」を担当、ブランドの立ち上げから店舗運営の経験を積んだ。
―阿久津さんと菊池さんは元々IT系の会社で同期だったと聞いております。一緒にコンマティーを作ろうとなるまで、どのような経緯だったのでしょうか?
去年の1月、菊池から5年ぶりくらいに連絡がきて、久しぶりに会うことになったんです。そこで、ティースタンドのお店を一緒にしないかと誘われました。初めて聞いたときは純粋に面白そうだと思いました。僕は飽き性なので、新しいことをしてみたくて笑
それで、次の週には二人で中国に、まずは見に行こうと思って旅行のような感じで上海に行きました。
―台湾ではなくて上海だったのですね。
タピオカミルクティーは台湾発のブランドが多いと思うのですが、中国は最先端で、いろいろなブランドが集まってきている。元々あったお茶文化に、ミルクティーやティースタンドなどすごく人気があって、驚きました。女性だけでなく、男性も年齢問わずみんな利用しているんですよ。ジャスミンティーやウーロン茶みたいなものから、日本では珍しい「チーズティー」や、フルーツがそのまま入った「フルーツティー」など、味もすごく美味しかったです。チーズティーは、中国で初めて飲んで「これ、美味しいからやりたいね!」ということでうちでも始めました。
―チーズティーは窪田も先日、初めて飲んで美味しいと気に入っていましたよ!
それで、阿久津さんも一緒にコンマティーを始めることにしたのですね。そこからお店スタートまですごく短い期間ですが、どのように始まったのでしょう?
1月に菊池とやることを決めて、でも、実際スマイルズには3月いっぱいまでいました。2月には物件を決めて、3月中に工事を行い、4月引き渡しで、4月中旬にテストオープン、5月1日に正式にオープンをしました。先月ちょうど各店でブランド一周年イベントを開催しました。
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高田馬場店オープン時に発売となった「焦がし黒糖タピオカラテ」
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新業態「comma TO GO」はテイクアウト専門店。新宿小田急店と静岡パルコ店の2店舗がある。オープン時にはいつも行列となる。
2店舗目の高田馬場で、本場の人からも認められると実感した
中国から帰った阿久津さんは、スマイルズを辞めコンマティーを菊池さんと共に始めることを決意。その3ヶ月後の4月には1店舗目をオープンさせた。初めは、訪れる客も1日数組で売上を数える日々だったとのこと。5月に入ってメディアに取り上げられるようになると、瞬く間にファンを増やした。
―コンマティーをやると決めてから、5月に恵比寿店、10月には高田馬場店と、かなりのスピード感でお店を出されています。2店舗目の流れはどうやってできたのですか?
もともと、この仕事をするには1軒でじっくりという形ではなく、一気に認知度を上げていくことを目指していました。1店舗目に恵比寿をオープンした後、2店舗目を出すという時には、少し焦りもあったと思います。
恵比寿というオシャレな街で、主にお仕事をしている女性を相手にしていたのが、高田馬場だと街の雰囲気も全く変わる。お店は駅からも遠くて、ここでやっていけるかという不安が正直ありました。
でも、高田馬場は実は日本語学校が多くて、アジアの学生たちがたくさんいる場所。ここで認められたらやっていけるという自信にもなると思い、高田馬場店の出店を決意しました。
―なるほど!確かに高田馬場は人種のるつぼみたいなところがありますよね。笑 早稲田や学習院の学生も多いですしね。
そうなんです。10月に高田馬場をオープンしたときには、ちょうど文化祭も重なって、行列ができました。
すごく嬉しかったのは、ある時、中国人のカップルが入ってきて、彼氏が「中国と比べるとかなり高いね。」と言っていたらしいです。たまたま店に中国語がわかるスタッフがいたので内容がわかったのですがそれを聞いて、もう来てくれないかなと思ったのですが、その後もよく買いに来てくれる常連になってくれて本場の人に認められたとすごく嬉しかったです。
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KA&Aで初めて設計を担当した池袋パルコ店
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池袋パルコ店オープンの日に、社長の菊池さんをKA&Aメンバーで囲んで
揺るぎない美味しさは、改良と研鑽の証
―私は、実は池袋店で設計をさせて頂いた時からコンマティのファンで、オープン初日には担当者と見に行って、みんなで新しいお店でタピオカミルクティーを飲みながら集合写真を撮るのを恒例にしています。阿久津さんにも毎回入って頂いて。笑
それまでは、タピオカミルクティーを飲んだことのなかった担当者、…というかおじさん(笑)たちも美味しいと気に入っていて。
私は普段コーヒーが飲めないので紅茶派で、シンガポールのTWGや、フランスのマリアージュフレールなんかがすごく好きなのですが、そこにも通じるような味で、コンマティーさんの紅茶はかなり美味しいと思います。
それはありがとうございます!茶葉には初めからすごくこだわっていて、改良をずっと加えています。元々が中国や台湾からきた訳ではないので、茶葉の販路が決まっていないので、どういうものがタピオカに合うのか、どういう味や濃さが良いのかまた、タピオカの茹で方なんかも研究を重ねています。
オープン1年ということで、5月からは茶葉をリニューアルしました。今では、工場でコンマティー専用にブレンドしてもらって、オリジナルブレンドを使っています。
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青山表参道店のオープン日の様子
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吉祥寺マルイ店のオープン日。阿久津さんとKA&Aスタッフ、設備設計の担当者と恒例の集合写真。
「あなたの1日に小さなコンマを」
全てその想いにつながる店舗づくり
―昨年、KA&Aに設計依頼を頂いて、そこから引き続きご一緒させて頂いているのですが、私たちも、まさかタピオカミルクティー屋さんからのご依頼が来るとは思っていなかったので、お話を頂いたときにはビックリしました。
ただ、これは単なる流行り物を出していくということではなく、「日本に紅茶文化を浸透させたい」という思いを伺い、窪田もとても面白いと響いたようです。
こういう業態でデザイン事務所にお願いして頂けること自体が珍しくてありがたいなと思いましたが、率直に、なぜデザインにもお金をかけようと思ったのでしょうか?
実際に、日本にあるタピオカミルクティー屋さんはデザインがヤングな気がしていて、コンマティーは大人の女性も男性も入りやすいデザインにしたかったんです。若い人だけというイメージを変えて間口を広くしたいと思ったので、色々調べて窪田さんのところは狙い撃ちでお願いしました。笑
―そうなのですね!それは嬉しいです。
確かに、コンマティーさんは以前より男性のお客様の姿がチラホラ見えるようになりましたね。先ほども何組か大人の男性だけのお客様を見かけました。
コンマティーという店名にもなっている「コンマ」というのが、「あなたの1日に小さなコンマを」というお店のコンセプトになるのですが、1日の小さなお休みにホッと一息つける場所にしてもらいたいという願いが込められています。それには、空間をどうつくるか、ということがとても重要だと感じていて、デザインにもこだわってつくることにしました。
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青山表参道店の内装
日本発信で海外にも展開を
日本に紅茶文化を根付かせたいという思いと、明確なコンセプトがあるからこそ、ブレない店づくりが全国に店舗数を増やしている。
―今後のヴィジョンについてはいかがでしょうか?
今の課題は、インナーを強化していくことです。あっという間に店舗数も増えたことで、現在は従業員数が150人を超えています。小さい中でやっていた時には、当たり前にできていたことが、拡大することでできなくなっていくことも多いと思うんです。
そこをきちんと共有して、変わらない店づくりをしていくようにしたいと思っています。
―すごい人数に増えているのですね。今では、女子大生の間でも、タピオカミルクティー屋さんで働くことが人気のなんだとか?
吉祥寺店オープンの時は、200名ほどの応募がありました。
―飲食店では働く人の数が減っているという問題が昔からありますが、その数の応募はすごいですね。どれだけ女子の間で人気なのかが分かりますね。
今は日本全国に店舗数を増やして、紅茶文化をつくっている。それが、この先、日本から海外に広げていくということもしていきたいです。
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アルバイトの大学生も、タピオカミルクティーが大好きだと話す。「よく、お店のスタッフ同士で、色々なお店に行って情報共有をします。それでも、一周回って、やっぱりコンマティーが美味しいとみんなで言っているのです。」と、目を輝かせて話す姿が印象的。
編集あとがき
取材の後、ランチを取り損ねてスープストック東京の表参道駅地下にあるお店に足を踏み入れた。ここは便利で、私もしょっちゅう利用する店。ポイントカードも貯めている。
私が空になったコンマティーの容器を持っているのを見て、定員の方が気軽に話しかけてくれた。
「ゴミ、捨てましょうか?」
「どうもありがとう。残っているタピオカを食べたら捨てますね。」と言ったところ、
「コンマティーさんですよね?私もすごく好きなんです。コンマティーさんて、スープストックの会社を出た方が作ったんですよ!」
目を輝かせて話してくれた。思わず、私も
「知っていますよ!今、その方とお話ししていたんです。」
「え!すごい!!何を飲まれたのですか?」
と聞かれたので、「これはロイヤルブレンドです。最近はこれがお気に入りなんです!」
「それは飲んだことなかったです!私も今度飲んでみます。」
ほんの数分の間の他愛のないおしゃべり。彼女からは、コンマティーが好きなこと、そしてコンマティーをスマイルズ出身の人が作ったということをどこか誇らしく感じているのが伝わって、私まで嬉しく感じた。
彼女との偶然の出会いで、これからコンマティーがますます成長していくのを、憧れを持って感じている人がいることを知り、そのお店づくりに関わっていることが、色々な人たちの思いにつながっていることを感じて嬉しくなった。
入ってきたときよりも心が満たされているのを感じ、店を後にした。