2020 12.07
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社内インタビュー② 建築家が、自邸を建てる
建築家を志す者なら一度は持つ「自邸を建ててみたい」という夢。KA&Aのメンバーでも、「自分の家を建てる」ことに憧れを持つデザイナーは多い中、建築チームのチーフが今年、マイホームを完成させました。
そこにはどんな思いが詰まっていて、家族との時間を過ごしているのか、私も興味津々で「建築家の自邸」を取材させてもらうことにしました。
田兼雄介
一級建築士 建築チーム チーフ
1982年広島生まれ
神奈川大学建築学科卒業
2008年KA&Aに参加。メルセデス・ベンツ和歌山、METoA Ginza、今治タオル青山、GIFU MONOLITH、OOITA MONOLITH など担当。
私生活は二児の父。最近の出来事は、「ピアノの親子連弾の発表会がある!」
建築家のマイホームへお宅拝見!
玄関を開けると、正面には倉俣史朗の「オバQ」の照明があり、玄関の白い壁にも倉俣史朗のアート作品「Just In Time」が飾られています。靴を脱ぐ前に、目に飛び込んできたアートな世界に足を止めてしまいました。
田兼さんの奥様はアートギャラリーで働くギャラリスト。建築家の夫が設計した空間に、ギャラリストの妻がアートを飾り、白い玄関の光景がこの家のセンスの良さを感じさせる象徴的な空間となっています。
これはただ事ではないな・・・という思いを胸に、
「お邪魔いたします!!」
玄関を抜け、廊下へと進むと、真っ白い洗面所のスペースが一面にクローゼット。
ここは家族が「ウォークスルークローゼット」と呼んでいる洗面と収納スペース。ウォークインクローゼットとは違い、廊下自体がクローゼットになっているため敢えて「ウォークスルー」と名付けられました。
子供達が成長して行く中で、家族で一緒に過ごす時間が取りにくくなって行くことを考え、朝は忙しい中でもみんなが一緒に身支度して、一日の始まりを迎えられるように設計をしたということです。
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目線の先は抜けるようにして、空間に奥行きをだす。
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洗面所の鏡には時計をはめ込み、時間を確認しながら朝の支度が行えるように。
また、そうすることで、個室に収納がなく、中がシンプルになりました。
センスの良さの陰に、シンプルあり。
1階部分は、このウォークスルークローゼットの奥に家族の寝室と子供部屋が続きます。
一階にリビング、2階に寝室や個室、というつくりが一般的だと思っていた私は、この構成にも驚きを隠せませんでした。
「一階より二階の方に光が入りやすいことを考えると、リビングを2階に持って来て、1階は寝室と子供部屋にすることにしました。また、一階の廊下(ウォークスルークローゼット上部)にもできるだけ明かりを取り込むために、天井部分をガラスにしています。」
そして、続いて2階へ。階段を上がって、リビングへの扉を開けると思わず私も「わぁっ」と声をあげる空間が広がりました。
天井の高いリビングに、大きな照明が吊るされています。そして、正面の大きな窓からは遠くの景色まで見渡せて、リビングの世界観を広げます。
ここは、家族がくつろぐ大切な場所。リビングの中にはキッチンがあり、このキッチンの動線は、一階のウォークスルークローゼットの真上に当たります。つまり、キッチン動線は床がガラス面になっていて明るい空間に。冷蔵庫やエアコンは、全て木の扉の中に収納されていました。
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夜の時間帯。1階の照明をつけると、キッチンが光の通路となる。
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エアコン、冷蔵庫、食器棚など生活感を感じさせるものは全て収納して、スッキリと見せる。
「とにかく、プラスチックを出さないことにしたんです。最初はリビングにテレビを置こうとも思ったのですが、テレビを置くと自然に家具の配置も決まってしまう。思い切ってテレビを置くのをやめることにしたら、家族の会話が増えました。」
奥様にお話を聞くと「家族でリビングにいる時間がとっても好きです。キッチンにいながらも子供達と触れ合えるし、とにかく居心地が良いんです。ここに住むようになって、みんなで一緒にリビングにいる時間が増えました。」
2階のリビングでの時間をなるべく増やすようにと、1階の個室はできるだけ狭くなるようにしたと言います。個室を小さくして、その他のスペース、エントランスを広げる。そうすることで、自然と家族が2階に集まるようになり、家族の団欒の時間が増えるようになりました。
ちょうど、小学校に通う長男君が帰って来ました。「お家でどこが一番好き?」と聞いてみると、「窓が好き!」と元気な返事が返って来ました。「遠くまで見えるからここが好き。」
奥様が言うには、お家は、子供たちの友達からも人気があるようです。「すっごい人気だよ!」と嬉しそうに話す長男君。ガラスの床があり、大きな窓があるので子供達が遊びに来るとみんな喜んで動き回るとか。
家族が「自慢にできるお家」を設計した田兼さん。
住宅の設計は、空間の設計から家族との時間を設計することなのだと改めて感じました。
一通りお家を案内して頂いたところで、仕事に関するインタビューにも答えて頂きました。
――――建築家を目指そうと思ったきっかけを教えてください。
「子供の時に、実家の建て替えで住宅の展示場を回った時だと思います。中3の時位に建築家になりたいと言い始めると、両親が当時行われた『黒川紀章展』に連れて行ってくれたんです。建築の本を渡されて、その時に建築のすごさに惹かれました。」
――――仕事をしていて楽しいと感じるところは?
「現場と良い関係が組めたら良いチームが作れると思っていて、それぞれの立場から意見を出し合い解決して行くのが楽しいですね。だから、最初の段階から良いチームが作れるように、意識をしてこまめに連絡を取るようにしています。特に要件はないのだけど「どうですか?」と気軽に連絡してみると、相手も何かあったりするんです。また、そういうことをしていると、向こうも何かあった時にすぐに連絡をくれたりする。そういう細かいことの積み重ねでプロジェクトが良い方に進んで行くと思っています。」
――――会社のチーム制についてはどうですか?
「チームがあるのは良いことだなと思っています。一人でやっていると、視野が狭くなってしまって、小さいことで立ち止まってしまうこともある。そういう時には、プロジェクトメンバーではなくてもチームのメンバーにちょっと話して見たりすると、案外解決策がすぐ見つかったりもするんです。最近は、チーム内で担当した物件を 「こうしておけばよかった」記憶として持っていたものを共有するようにしました。そうすることで、チームのメンバーの経験を自分も学ぶことができます。今は、問題があることも、取り繕うのではなくて言いやすい環境づくりをしたいと思っています。」
――――チームのトップに立つことで悩むこともありましたか?
「5年くらいは、「田兼チーム」というものに気負っていたような気がします。「ダサい」ものは作れないと思って。笑 でも、「ダサい」と切り捨てるだけでは、アイディアを育てられていないと気がつきました。
これは、前に窪田さんから聞いた話だと思うのですが「会議は世界で一番安全な場所」という言葉を聞いたんです。まだ誰にも聞かせてない、誰にも損にならない場所。そもそも違う頭の人たちが集まっているのだから、自分が意見を「良い・悪い」で判断するのではなくて、アイディアを育てていくことをしたいと思うようになったらだいぶ楽になりました。笑」
――――自分の家を設計したことで、何か変わったことはありましたか?
「僕、初めて勉強してるんです。笑 自分で設計したところに住むのは初めてだから。
一つ、気がついたことはその空間の「スーパーお気に入りのところ」を見つけたら満足できるということかもしれません。これからも施主の方と一緒に、「スーパーお気に入り」を作っていきたいと思います。」
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田兼さんが入社後初めて担当した住宅物件(2008)
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建築チームチーフとして担当したメルセデス・ベンツ和歌山(2017)
新型コロナウィルスの感染拡大により、家や自分の街にいる時間をいかに大切に過ごすかということが、改めて考え直されるようになりました。自邸を設計することで、理想とする家族との時間をつくり上げたKA&A建築チーフの田兼雄介。また、チーム制を作り上げることも、一つはデザインの内。設計をデザインと言うなら、図面上のことだけでなく、家族という最も小さな社会から、社内のチームワーク、人と人の関係性をデザインすることなのだと改めて感じられたインタビューでした。
Special Thanks!! 田兼家の皆様