Aoi Teien

400年以上の歴史を誇る日本庭園を活かしながら、既存である木造の旧日本家屋(以下：木造棟)の改修と新しく別棟として建物を建て、新旧それぞれの空気感が融合する一体感を持ったブライダル施設をつくる計画とした。
計画地は和歌山市内で、近隣には和歌山城や岡公園といった県内でも指折りの歴史的な資産に恵まれたエリアである。敷地目の前の岡公園は、和歌山城の築城の際に石垣に使用する石の採取が行われた場所で、計画地の日本庭園内にも地中で繋がっており、非常に頑強な地盤を形成していた。その岩をすり鉢状に削り、つくられたのが庭園中央にある池であった。
徳川にゆかりのある場所として有名であり、元は「あおい茶寮」という名の料亭であったことから、徳川家の家紋にちなみ「葵庭園」と名付けられた。この土地の特徴的な要素をいかして歴史を継承しながら、新たな価値を創造し、この先永く新郎新婦の結びの場となることを目指した。

施設に最初にお客様を迎え入れる門を新設し、周辺環境との調和を十分に意識しながら、風格や気品を感じられる設えとした。
暖簾を潜り日本庭園を歩きながら最初に到達する木造棟のラウンジ空間は、既存の小屋組を現わしにした天井や、縁側から見える日本庭園により、この建物の空気感や歴史性を初めに感じてもらえる空間となり、式の始まる前の期待感や厳かな雰囲気を演出する。
また、ラウンジは既存で2階まであった部分を屋根までの吹き抜けとしたことで、入口から続く天井の低い日本的なスケール感から一気に空間が広がり、驚きと開放感を与える。
木造棟については、もともとあった日本家屋の良さを引き立たせることを意図し、最小限の意匠で空間の持つ価値を最大限引き出すことを意識した。工事を進める中で、丸太の梁が架かる小屋組が露わになったものが非常に魅力的であるなど様々な発見があり、その都度クライアント、施工業者、大工と何度も打ち合わせや検討を重ねながら、デザインの決断をしていった。家具についてはモダンテイストなものを採用し、張地などで空間全体の上質さを表現することを考えた。

木造棟から新築棟へ移動する空間は、新旧が切り替わる建築空間としての調和を配慮する必要があるとともに、参列者の気持ちを挙式に向けて切り替え、高めるための動線としても非常に重要であると考えた。
日本的な雰囲気かつモダンな空間とし、木造棟から新築棟へ空間が緩やかに切り替わることで、そこを歩く際に気持ちも徐々に切り替わる。日本文化における間（はざま）を意識し、ただの移動空間とならない、期待を高められる空間となるようなデザインとしている。

2Fにあるチャペルは、ブライダル施設の中で最も重要で神聖な空間である。開口部はバージンロード上部のトップライトのみとし、和歌山城の石垣をイメージした壁や、バージンロード正面に設けた水を流したステンレスメッシュなど、自然の醸し出す神聖な表現をしている。
1Fのバンケットは、庭園に向けての大きな開口部を空間の正面に設けることで、そこから見える池や木造棟を借景的に捉え、日本的な雰囲気をバンケット内に取り込むよう考えた。日本庭園の池に、霧や光による演出を加えることで、日本庭園とその先の木造建物を引き立たせ、厳かな雰囲気の中に華やかさを生み出した。
チャペル・バンケットともに、新築の中にも木造棟の積み重ねてきた歴史と調和するクラシカルな要素を全体に取り入れることで、施設全体が庭を介して一体となる「庭屋一如」のブライダル施設を実現している。